月表層の金属粒子中から∆17O=+25‰の大きな酸素同位体比異常が報告された[Ireland et al., 2006]が、その起源は不明である。Ozimaら[2008]は、この異常は高度300km程度の地球熱圏起源であると提案した。この仮説は量的には説明されたが、同位体比を検証する必要がある。そこで、紫外線による分子解離の断面積を第一原理計算から求め [Heller, 1978]、月表層の同位体比異常の説明を試みる。 酸素分子の振動励起状態は1200Kのボルツマン分布、セルフシールディングモデルに倣い量子収率を1、太陽は6000Kの黒体と仮定し、熱圏での光解離速度定数を求めた。熱圏の酸素の同位体比をSMOWとし、光解離した酸素原子は∆17O=+3.8‰の同位体比異常を得た。実際の熱圏は非局所平衡にあると考えられ、ボルツマン分布より上位の振動励起状態の密度が高く、同位体比異常はより大きい可能性がある。