日本地球化学会年会要旨集
2009年度日本地球化学会第56回年会講演要旨集
セッションID: 1E07 06-07
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水圏環境地球化学
地下深部環境のBIO-NANO-GEO Science―瑞浪超深地層研究所における試み―
*鈴木 庸平福田 朱里幸塚 麻理子石村 豊穂天野 由紀萩原 大樹角皆 潤水野 崇
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抄録
地下深部の化学環境とその長期的変遷は,水理地質構造とそれに依存する地下水流動状態,岩石と地下水との反応や微生物による生物化学的反応などにより支配されると考えられる.地下深部を対象とした研究では,高品質の岩石および地下水試料を取得することが難しく,原位置における化学環境を把握することが難しかった.しかし,近年では,試料採取時の品質管理手法が確立されつつあり,高品質の岩石および地下水試料を入手する機会が世界中で増加しており,原位置での化学環境を正確に把握することが可能になりつつある. 我が国の陸域でも深地層の研究施設 (URL) が建設されており, 高品質の岩石および地下水試料を採取する事が可能である. 地下微生物は巨大なバイオマスとして認識されてから日がまだ浅く, 地下深部という極限環境にどのように適応してライフサイクルを営んでいるかについての知見は乏しいのが現状である. 地下空間利用の観点からも, 微生物が地下環境の人為的な擾乱に対して, どのようにレスポンスして生態を変化させるかは, 興味深い研究対象である. また, 微生物の代謝活動はナノスケールの産物を媒体として, 物質循環に影響を及ぼすと幅広く認識されるが, 地下深部での実態は明らかでない. 本研究では, 岐阜県瑞浪市で建設中の瑞浪超深地層研究所において採取された高品質の地下水試料および岩石コアを用いて, 微生物が関与するナノスケールでの現象を理解するための研究を行い, 2008年度は地上から掘削されたボーリング孔(MIZ-1号孔:掘削長約1300m)を対象に,深度約1150メートルの花崗岩体から採取された地下水試料を重点的に調査した. 基本水質測定, 溶存ガス成分の安定同位体組成と濃度測定, 微生物群集構造解析, 微生物代謝活性測定等に加えて, NanoSIMS,原子間力顕微鏡を組み合わせた微生物・ナノ粒子複合体を捉えるための分析および観察を実施した. 結果の概要として, 1)塩化物イオン濃度が海水の10分の1程度の深層地下水は, 電子供与体として約1 mMの生成起源不明のメタン(δ13C = -25.9‰)と溶存有機物を1.2 ppm含み, 二酸化炭素以外の主要な電子受容体に乏しいこと, 2)全菌数は50000細胞/mlでDNAに基づく群集構造解析の結果, 難分解性の芳香族炭化水素をエネルギー源にするThauera属の微生物が優占すること, 3) ナノスケールの鉄・シリカを含有する粒子に微生物細胞が共存していることが明らかになった. 本研究で得られた成果の意義を議論すると共に, 硫酸還元微生物代謝活性を対象とした34S硫酸のラベル実験とNanoSIMS分析を組み合わせた新規手法の開発についても紹介する. なお, 本研究は原子力安全・保安院からの委託業務である「平成20年度地層処分に係る地質情報データの整備」の一環として実施した.
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© 2009 日本地球化学会
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