抄録
炭化水素は比較的安定な有機化合物として堆積盆地の地下深部に広く分布している.炭化水素を構成する炭素と水素のいずれにも安定同位体が存在しているが,地下深部の堆積岩中に存在する炭化水素の水素同位体組成(dD)に関する研究は必ずしも多くない.それは堆積岩中の炭化水素dD値がどのように変化するのか,あるいは変化しないのか,十分に明らかにされていないためである.堆積盆地では,間隙水との水素交換,熱化学反応にともなう同位体分別,移動や相変化にともなう同位体分別によって,炭化水素のdD値が変化することが考えられる.また,地下深部での炭化水素流体の移動や気相-液相の相変化にともなって,水素の同位体分別が行われている可能性もある.堆積盆地における直鎖状炭化水素,分岐状炭化水素,芳香族炭化水素の安定水素同位体比の変化について述べる.