日本地球化学会年会要旨集
2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
セッションID: 1P36 05-P02
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古気候・古環境解析の地球化学
最終氷期最大期のグリーンランド古気温復元と海氷分布の影響:水同位体大循環モデルを用いたシミュレーション
*大垣内 るみ阿部 彩子末吉 哲雄栗田 直幸
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キーワード: 酸素同位体, 氷床コア, LGM, 海氷
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抄録

グリーンランド(GL)氷床コアから得られる水の同位体比から過去の気温を復元することは、観測される気温-降水酸素同位体比(d18O)の関係を用いる方法では過小評価されることが知られている。 Werner et al. 2000は、降水の季節進行を考慮に入れて解析するとその誤差が縮小することを示した。また、Lee et al. 2005は、氷期の海氷の増減によって降水量重みをかけた気温変化が小さくなる事を示した。
そこで氷床コアの同位体データを用いた古気温復元の精度向上に資するため、同位体組み込み大気大循環モデル(GCM) MIROC3.2を用いて水同位体比を用いた氷期の古気温復元に海氷の増減が影響するのかを調べた。 MIROC3.2を用いて産業革命前 (PI) と 最終氷期最大期(LGM) をシミュレートした。さらに、Dansgaad-Oeschger cycleなどの氷期の間に起こる気候変動による海氷広がりの増減を想定して、海氷分布がPIの状態のLGMシミュレーションを行った。海面水温、海氷量、分布は、同じMIROC3.2の大気海洋結合GCMで計算したデータを用いた。
降水の季節進行を考慮にいれて(降水量で重みをつける)解析を行った。この際に、それぞれの気候場での降水季節進行を考慮する必要がある。その結果、氷床上の気温とd18O関係の分布が異なる時代であっても近くなる。この結果は、Werner et al. 2000と整合的である。つまり、降水重み付き気温-d18Oの関係を用いた古気温復元ができるのではないかと思われる。解析は、6つの氷床コアサイト(Camp Century, NEEM, NGRIP, GRIP, GISP2, Dye3)に注目して行った。その結果、GL中心部では、LGM気温は2℃以下の誤差でよく再現できることがわかったが、GL南北のコアのエリアでは誤差が大きくなる。また、海氷分布が狭いLGM実験では、中心部でもLGMより誤差が大きく、中心から離れるほど大きくなる傾向は同じである(多くの場所で5℃<)。つまり氷期の海氷の増減は古気温みつもりに影響し、この傾向は、GL縁辺部にいくに従い顕著になる。これは、海氷が後退すると、GL近傍に海氷に覆われていない海面が現れることにより、その海面起源の、ソースが近く重い水蒸気がGL上にも到達するためだと考えられる。ただし、本研究では極端に海氷が少ない状況を想定したため、海氷の影響の上限を見積もったことになる。このことから、氷床コアの水同位体比を用いた古気温復元には対象の時代毎の海氷分布を考慮することが必要であり、同位体データと海氷分布の復元とを組み合わせることにより、より精度の高い古気温復元に資すると考えられる。

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© 2010 日本地球化学会
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