日本地球化学会年会要旨集
2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
セッションID: 1A04 15-04
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Geofluids:地球内部流体とその役割
島弧接合部におけるスラブ起源流体の分布と挙動
*中村 仁美岩森 光石塚 治木村 純一中川 光弘宮崎 隆高橋 俊郎平原 由香常 青
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抄録

海溝から沈み込む海洋プレートがマントル深部へ運ぶ水は、スラブ起源流体と呼ばれ、マグマ発生や地震活動に極めて重要な役割を担っている。近年、沈み込み帯における水を媒体とする様々な現象について、地震・電磁気などの地球物理学的観測と高圧実験や地球化学的解析を融合させ,統一的に捉えようとする動きが盛んである。
中部日本ではスラブが二枚斜行して重なるように複雑に沈み込んでおり、プレートの幾何学的形状や地震学的性質に対応したスラブ起源流体の分布が地球化学的手法により明らかにされている(Nakamura et al.,2008)。また,島弧間の比較から,テクトニクスやスラブ上の脱水条件の違いが,スラブ起源流体の化学組成や付加量を支配することも分かってきた(Nakamura and Iwamori, 2009)。そこで,本研究では,島弧接合部に焦点をあて,島弧の境界部分での異方的構造とスラブ起源流体の関係を明らかにすることで,スラブ流体の挙動について新たな制約を与えることを目的とする。
島弧接合部として,上信越背弧側(中部~東北)、北海道南西部(東北~北海道)、北海道北東部(北海道~千島弧)の3地域に着目し,火山岩の採取と分析を行った。その結果,上信越背弧側地域では(207Pb/204Pb:15.55-15.57; 143Nd/144Nd:0.51278-0.51293),中部日本で顕著に見られるフィリピン海プレートの影響は認められなかった。北海道南西部では(207Pb/204Pb:15.56-15.58; 143Nd/144Nd:0.51282-0.51290),東北日本弧からの連続性は認められないが,北海道中央部~北海道北東部 (207Pb/204Pb:15.53-15.55; 143Nd/144Nd:0.51294-0.51304)~千島弧へ繋がる同位体組成の変化が顕著に見られた.
渡島大島は,千島弧のシステマティクスから外れ,スラブ深度や同位体組成の特徴から見ると,東北日本との連続性が良い.そこで,渡島大島と北海道南西部との境界を接合部と捉え,上信越背弧側も合わせて考えると,スラブ起源流体は水平方向の広がりをあまり持たず,その影響範囲は限定されており(<100km; 火山フロント~背弧の距離程度),スラブ起源流体の組成は島弧内でほぼ一定で,キンクを境に不連続にスラブ上での脱水条件が変化し組成を変えていると解釈できる.一方,北海道北東部は,北海道中央部~千島弧にかけてキンクを持たないスラブが沈み込んでおり,遷移的な同位体変化をしていると捉えることができる.これは,陸弧から海弧へテクトニクスが変わることによる流体の挙動の連続的な変化(組成や付加量)を反映しているのかもしれない.

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© 2010 日本地球化学会
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