抄録
窒素は、植物プランクトンの必須元素であり、特に窒素が枯渇する海域では、大気からの沈着(乾性・湿性沈着)が種組成を変えうる重要な役割を果たすが、大気由来の窒素化合物の海洋生態系への影響はまだ不確実な推定によるところが多い。本研究では南北太平洋の北緯48度-南緯55度で得られたエアロゾル、降水サンプルの無機窒素化合物を定量した。南北太平洋において乾性沈着では硝酸塩が主要無機窒素化合物だが、湿性沈着にとってはアンモニウムイオンが主要な無機窒素化合物であった。大気から無機窒素化合物は、南北太平洋における約0.86-1.7%の一次生物生産に寄与すると見積もられた。ダストイベントなどに伴う突発的な窒素化合物の沈着は、短期間に多量の窒素化合物を海洋へ供給し、生態系への影響は大きい。地球温暖化により海の成層化が強化され窒素が枯渇する海域では、大気からの窒素化合物の沈着は、海洋生態系を規制している可能性がある。