抄録
我が国におけるこれまでの海氷研究は、主に物理過程を明らかにすることに主眼が置かれ、海氷の物理的動態を実測や衛星観測、モデリングから明らかにする研究が精力的に進められてきた。一方で、海氷に関わる化学過程や生物過程に関しては、これまで十分な研究が展開されていなかった。海氷の生成が生み出す独特の海洋循環を介して、他海域の物質循環にまで多大な影響を与えているシステムの存在が指摘されており、これらのシステムを理解するためには、海氷の存在する時期から消失していくまでの詳細な時系列観測、ポリニヤにおける海氷の生成が起こっている現場での観測が欠かせない。また、地球規模で起こっている環境変動を理解するためには、通年観測する必要があり、海洋研究プラットフォームを生物地球化学分野で最大限活用すると同時に、厳冬期でも観測が続けられる本格的な観測研究用の砕氷船が欠かせないだろう。