抄録
温泉成鉄質沈殿物は先カンブリア紀に形成された縞状鉄鉱層(BIF)と組成的・組織的に非常に類似しているため,BIFのモダンアナログとしてのポテンシャルが高い.
入之波温泉の鉄質沈殿物に見られる縞状組織は炭酸塩鉱物の基質と上方に向かって枝分かれしたフィラメント状鉄水酸化物で構成されている.鉄質沈殿物から中性環境で生息する鉄酸化細菌や他の生育するために溶存酸素が必要な独立栄養化学合成細菌が検出された.おそらく,これらの微生物群集の競争により縞状組織が発達したと考えられる.
奥々八九郎温泉の鉄質沈殿物にも縞状組織が認められ,鉄酸化細菌とシアノバクテリアが検出された.奥々八九郎温泉水には溶存酸素を全く含んでおらず,おそらく奥々八九郎温泉の鉄質沈殿物は,シアノバクテリアの光合成により発生した酸素を沈殿物表面で鉄酸化細菌が利用することにより,沈殿したと考えられる.