抄録
生命の起源における重要段階であるRNAの誕生にはその構成物質であるリボースの利用性が問題である。実験的に水溶液中でのホウ酸複合体形成によるリボースの選択的安定化が示されているが、ホウ酸濃集を可能とする環境が必要となる。本研究では初期地球でホウ酸、および有機物が濃集しうる環境として海洋堆積物を想定し、その痕跡を発見するためにグリーンランド・イスア表成岩体中の変成堆積岩であるザクロ石-黒雲母片岩を観察・分析した。その結果試料中にホウケイ酸塩鉱物であるトルマリンとグラファイトの共存が確認され、トルマリンの詳細な組成分析と全岩組成分析結果から試料中のトルマリンは堆積物の続成・変成作用中に生成したことが示された。以上より海洋堆積物に濃集したホウ酸と、リボースなどの有機物が初期太古代に続成・変成作用を経ることでトルマリンとグラファイトが形成したことが判明し、これは初期地球においてホウ酸とリボースが複合体を作りうる環境が海洋堆積物中に存在した可能性を示唆する。