抄録
高圧型変成岩と石英脈と流体包有物を用いて,沈み込み帯深部流体の化学組成を検討した.西南日本の三波川変成帯において採取した石英脈はその組織から,完晶質なP-type,変形の卓越するD-typeに分類することが出来た.変形組織などからP-typeの脈に捕獲されている包有物は変成ピーク時前後に捕獲されたものであると考えられる一方で,D-typeの石英脈に伴われる包有物は岩体上昇の後期に浅部流体の浸潤により捕獲されたものと考えられる.P-typeの脈はNa-Clを主成分とする比較的塩濃度の高い水溶液包有物(5-10 mass%)を伴う一方,D-typeの脈中の包有物は希薄な水溶液(<5mass%)でありHCO3が卓越する傾向がある.これらの流体包有物のB-Li-Cl組成に注目したところ,全ての試料に関して,海水と比較して(B+Li)/Clの比が高く「有馬型熱水」のものと似通っていることがわかった.