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河川水中の硝酸の濃度は、下流の湖沼や沿岸海域の一次生産や生態系構造に直接的に影響を与えるため、流域内のどのような過程に支配され、変化するのかについて知見を深める必要がある。近年では水環境中の硝酸の窒素・酸素安定同位体組成の高感度分析法が確立し、指標として利用できるようになった。特に、同化や脱窒過程で値が変化しない三酸素同位体異常は有用で、これを定量化することで、大気沈着由来の硝酸(大気硝酸)と硝化によって生成する硝酸(再生硝酸)の混合比を正確に定量出来るようになった。さらに、大気硝酸の混合比と全硝酸の濃度から、大気硝酸の絶対濃度を求められるようになった。本研究では、流下に伴う大気硝酸の絶対濃度の変化が、河川水中の硝化速度などの窒素循環速度の指標として利用できる可能性があると考えた。そこで、野洲川を対象に、流下に伴う全硝酸と大気硝酸の濃度変化を求め、河川水中の窒素循環の定量化に挑戦した。