近年、月岩石や隕石中のアパタイトの水素同位体分析が行われているが、そのデータを正しく解釈するためには、結晶中での水素拡散の理解が必須である.本研究では水蒸気雰囲気下でのプレアニーリングにより結晶内のダメージを除去した後に、重水の水蒸気雰囲気下でのトレーサー拡散実験を行うことで、ダメージの影響を受けない体積拡散の拡散係数を決定した。拡散実験は重水の水蒸気雰囲気下で行い(400-600˚C)、実験後には二次イオン質量分析法による深さ方向分析から拡散プロファイルを取得した.拡散プロファイルから、アパタイト結晶中での水素拡散の拡散種は、OH-ではなくH+であることが明らかになった.アパタイト中の水素拡散は、結晶方位依存性が小さいことがわかった.本研究で得られた拡散係数は、Higashi et al. (2017)で報告されている値よりもおよそ1桁小さく、Higashi et al. (2017)の値は結晶中に残ったダメージの影響を受けている.