縄文人の生活史の進化、発育に伴う食物内容の移行や健康状態に関する知見は縄文社会の発展を解析するうえで重要な基礎情報となる。有機物の残存しない地質時代の化石にも多く含まれるため将来的な応用範囲は広く、生体内の金属元素の反応系に特化した海と陸の資源の摂取傾向や栄養段階の新指標として期待される。本研究では縄文晩期の愛知県豊川市の稲荷山貝塚から出土した縄文人の歯試料5点を対象に微小領域分布および化学形態について報告する。リンに対する各元素のシグナル強度比とエナメル質の炭素同位体比、ストロンチウム同位体比、コラーゲンの炭素窒素同位体比を比較したところ、エナメル質の炭素同位体比と平均Mg/PおよびS/P信号強度比に相関(R = -0.91, -0.90)が認められた。マグネシウムはエナメル質と象牙質ともに化学形態の差異は認めらなかった。塩素のXAFSスペクトルの特徴は塩素フッ素燐灰石と類似し、硫黄はS(+6)とS(-2)の異なる酸化状態が混在していた。