p. 98-
発表者らは、2018年7月に、奈良県中央部に位置する五代松鍾乳洞を調査し、折れている石筍試料の中から2本を持ち帰った。年代測定では、当初、ウラン-トリウム年代の適用を試みたが、試料に含まれているウランとトリウムは既に永続平衡に達していた。そこで、ウラン-234/ウラン-238年代法を適用した。2019年2月に2 Lの滴下水を採集し、得られたウラン同位体比を、鉱物生成時の初生比([234U / 238U]0)とすることで、石筍中の同位体比([234U / 238U]t)から、年代値(t)を算出した。結果は、底部で743 ± 64 ka、頂部で676 ± 68 ka(1σ)となり、中期更新世初めを示した。これは、現在得られている日本の陸域記録としては最古のものと考えられる。安定同位体比は、およそ1‰の振幅で周期的な変動を示しており、中期更新世の気候トランジッションや哺乳類の移動と併せて、新たな証拠を提示すると考えられる。