日本地球化学会年会要旨集
2024年度日本地球化学会第71回年会講演要旨集
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G1 大気とその境界面における地球化学
「みらい」での大気観測データに基づいた大気化学輸送モデル「IMPACT」による氷晶核の海洋と陸域エアロゾルの寄与評価
*伊藤 彰記川名 華織當房 豊宮川 拓真竹谷 文一松本 和彦金谷 有剛
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p. 10-

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抄録

地球温暖化対策の枠組みを取り決めた「パリ協定」では、産業革命以前から将来に起こりうる気温上昇を2度未満に抑えるという目標を掲げている。しかし、地球温暖化を予測する最新の気候モデルでは、エアロゾル・雲相互作用による放射効果が適切に表現されていない。そのため、過去の気温再現実験でエアロゾルによる冷却効果をどの程度強く見積るかによって、将来、2度を上回る年が数十年異なって予測される。その一因として、「北極海上空の混合相雲」や「南大洋上空での低層雲」の生成・維持メカニズムの理解不足が挙げられる。それらのように陸から遠く離れた海洋大気中では、海表面から放出されるバイオエアロゾルが雲特性に影響を及ぼし、気候へと影響を与えることが仮説として提案されている(Wilson et al., 2015)。そこで、海洋大気における氷晶核の生成メカニズムの解明が、このようなエアロゾル・雲相互作用の理解不足を補うと考えられる。大気化学輸送モデルとしては、「IMPACT」を用いた(Ito and Miyakawa, 2023) 。この数値モデルに海洋と陸域エアロゾルの氷晶核を予測する数式を適用した。海洋由来の数式として、高い推定値(Wilson et al., 2015, hereafter as W15)と低い推定値(McCluskey et al., 2018, hereafter as M18)を見積もる手法を用いた。本研究では、海洋地球研究船「みらい」上で、ハイボリューム・エアサンプラーを用いて捕集された海洋大気エアロゾルの観測結果を用いて、数値モデルを評価した。さらに、その数値モデルを用いて、海洋と陸域のエアロゾル発生源に由来する氷晶核数濃度の数値結果を解析した。北太平洋では、W15を用いた場合に観測データと良い整合性が、見かけ上、得られた。一方、現状の数値モデルでは、M18を用いた場合に氷晶核数濃度を北太平洋で過小評価した。しかし南太平洋では、W15を用いた場合には氷晶核数濃度を過大評価した。一方南太平洋で、M18を用いた場合に観測データとより良い整合性が得られた。先行研究により、陸から遠く離れた南大洋域では、同様な結果が得られており、現場観測に基づいてW15より確かな手法としてM18を採用した。ここで北太平洋では、M18を用いた場合に氷晶核数濃度を過小評価した結果から、海洋由来のエアロゾルよりも、高い氷晶核形成能を持つ陸域起源のエアロゾルの寄与の重要性が示唆された。従って、海洋大気における氷晶核の生成メカニズムの解明のためには、陸域起源のエアロゾルの氷晶核数濃度をより正確に見積もることが重要となる。

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