日本地球化学会年会要旨集
2024年度日本地球化学会第71回年会講演要旨集
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受賞講演2
プレート境界における揮発性元素の物質循環に関する研究
鹿児島 渉悟
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p. 280-

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抄録

良い試料と適切な化学分析手法を組み合わせることで、我々は直接観察するわけでもなく、地球の内部で起きている現象をある程度まで推測することができる。これは偉大な先人たちと活動中の研究者らによる知見・知恵の積み重ねに基づくもので、大変ワクワクすることなので、公金で活動をさせて頂いている立場ではあるものの純粋に楽しむ心を持ちながら研究に臨んで良いと思う。私のこれまでの研究成果は主に固体地球科学に関するもので、プレート境界における火山活動や断層を通じた物質循環に関する報告が多い。これらは希ガス同位体などをトレーサとして用いた研究であるという共通点を持ち、研究対象は様々だが専門性が活かされている。本講演では、以下に記載する研究成果について紹介をさせて頂く予定である。 (1)中央海嶺―沈み込み帯を通じた揮発性元素の物質循環に関する研究全球的な揮発性元素の物質循環や各リザーバにおける滞留時間に関する知見は、地球史を通じた大気・海洋の化学組成や環境の変動を紐解く上で重要であり、将来の環境変動の予測などにも役立つと考えられる。マントル起源成分をよく保存する物質の化学・同位体組成は、固体地球内部―地球表層の物質循環に関する重要な情報を与えてくれる。たとえば、中央海嶺玄武岩の急冷周縁相を破砕することで揮発性元素を抽出することで、元素濃度と希ガス同位体組成を測定することができる。すると、ヘリウム-3の固体地球内部から地球表層へのフラックスはよく制約されているため、3Heとの濃度比に基づき揮発性元素の物質循環を議論することが可能となる(e.g., Kagoshima et al., 2012)。私たちは世界中の MORBや海底熱水・火山ガスの化学・同位体組成に基づいて、中央海嶺と沈み込み帯の火山活動を通じた硫黄のフラックスを推定し、固体地球内部―地球表層における全球的な硫黄の物質循環像を制約した。また、火山ガスに含まれる硫黄の大部分は沈み込んだ物質由来であり、マントル起源の割合は僅かであることを示した(Kagoshima et al., 2015)。 (2)火山の地球化学的観測研究日本には多くの活動的な火山が存在する。火山で放出されるガス・地下水の化学・同位体組成は、流体の起源を反映するため熱水系構造の推定に役立つ。また、化学データはマントル起源物質の混入率などに応じて変動するため、マグマ・熱水系の状態・活動度を評価する上でも有用である。私たちは活動的な火山の地球化学的観測を実施し、熱水系構造や火山噴火に伴い山体内部で発生した現象を解明してきた。たとえば 2014年 9月の木曽御嶽山の噴火や、2015年 6月の箱根山大涌谷の噴火の前後でガス試料に含まれる希ガス・炭素・窒素などの同位体組成を測定し、時系列データに基づいて噴火に伴う熱水系状態の変動を明らかにした(Kagoshima et al., 2016; Kagoshima et al., 2019)。また、このような研究で得られる観測データは、それぞれの火山において活動度のトレーサとして有用な元素・同位体が何であるかという情報を示すため、その後の観測研究に役立つ。火山観測を通じて熱水系の構造・状態を解明することは地球科学的に重要であるとともに、減災・防災の観点からも高い意義を持つものであり、現在に至るまで調査を実施している。 (3)海溝近傍の断層を通じた流体循環に関する研究海溝近傍では沈み込む海洋プレートの屈曲に伴い地形的高まりが生じ、断層やプチスポット火山の形成など様々な現象が発生する。このような現象に伴う流体循環はマグマの発生や地震活動、プレート沈み込み過程を通じた地球深部―表層のリザーバの化学進化に影響すると考えられ、その規模や時間変動を解明することは重要である。私たちは 2019年から研究航海を通じて、三陸沖日本海溝近傍の海底断層の堆積物・間隙水試料を採取して希ガスの同位体組成などを測定し、間隙水の起源と化学データの時空間分布を調査してきた( e.g., 鹿児島ほか , 2022; Park et al., 2021)。得られたデータは当該海域の海底下の広範囲に高い 3He/4He比を持つリザーバが存在することを示唆しており、海溝近傍における流体循環の実態を明らかにするため、今後も観測を継続する計画である。(本講演の関連研究) Kagoshima et al. (2012) Geochem. J. 46, e21-e26.; Kagoshima et al. (2015) Sci. Rep. 5, 8330.; Kagoshima et al. (2016) J. Volcanol. Geotherm. Res. 325, 179-188.; Kagoshima et al. (2019) Geochem. Geophys. Geosyst. 20, 4710-4722.; Park et al. (2021) Sci. Rep. 11, 12026.; 鹿児島ほか (2022) 日本地球化学会 2022年度年会基調講演. Research of geochemical cycles of volatile elements at plate boundaries *T. Kagoshima1(1Univ. Toyama)

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