主催: 日本地球化学会年会要旨集
会議名: 2024年度日本地球化学会第71回年会講演要旨集
回次: 71
開催日: 2024/09/18 - 2024/09/20
p. 93-
本講演では生命起源研究の問題を整理し、前生物化学(Prebiotic Chemistry)が真に取り組まねばならない課題は何なのかを再考する。まず、RNA worldに代表されるアプローチでは、有機物を豊富に含んだ原始スープを想定して、そこから自己複製する分子(リボヌクレオチドのオリゴマー)がいかにして生成するのかを探索している。しかし、初期地球環境を想定すると、そのような分子を合成するのに十分な量の糖と核酸塩基が蓄積した場は果たして存在したのか疑問である上に(希釈問題)、それらが重合して情報とその複製能をもつには、蓄積する分子が"特定"の分子(糖ならDリボース)でなければならず(選択性問題)、それら選択的分子が濃縮したスープを作り出すことは今のところ到底出来そうにない。またそのようなスープがあったとしても、自己複製が始まる保証は全くない。もしそうなら死んだ細胞には全ての材料が揃っているのであるから、すぐに自己複製を再開し、生き返ってよいはずである。非生物的にヌクレオチドを作って重合するにせよ、アミノ酸からオリゴペプチドを作るにせよ、その前段には「必要な特定のモノマーを蓄積あるいは増幅する物理化学系」が成立し、モノマーを作り続けなければならない。前駆代謝説はこの点に着目したアプローチである。ここで前駆代謝を再定義すると、生命発生の前段階で「環境中の物質から特定の材料分子を生成・増幅する反応系」ということになる。また、生成した分子それ自身が反応系を触媒することで、その反応系自体に堅牢性が備われば、環境から自立し、自己複製する分子群、すなわち生命への道が開かれる。前生物化学は、そのような反応系を探索し、実際に自己増幅あるいは複製することを実験的に実証すること、また、それが可能な環境条件を求めることが目指すべき目標である。この指針に基づき、講演ではCOを含む初期地球環境から前駆代謝を探索・構築・実証する取り組みについて紹介する。