将来の地球温暖化により、北極圏や標高の高いモンゴル内陸では、全球平均を上回る速度で気温上昇が進むと予測されており(IPCC AR6)、それに伴う永久凍土の不安定化が懸念されている。これらの地域は、完新世の最温暖期(約5〜7千年前)においても顕著な昇温を経験したとされており、当時の永久凍土の応答を復元することは、将来の温暖化影響の理解と予測に資する重要な手がかりとなる。陸域の古環境復元には湖沼堆積物が有効なアーカイブであるが、永久凍土帯では植生の多様性が限られるため、花粉等の従来のプロキシでは過去の温暖化や活動層の融解を明確に捉えることが難しい。そこで本研究では、2024年度第2回「鳥居・井上基金」の支援を一部活用し、アラスカおよびモンゴル高原に分布する湖沼において堆積物コアを採取した。対象湖沼の一部からは、イソクリシス目ハプト藻が産生するアルケノンが検出されており、これは陸域における希少な定量的温度プロキシとして期待される。今後、本プロキシを用いて、完新世最温暖期における気温変化およびそれに対する永久凍土の応答の復元を行う予定である。また、活動層の融解に伴い生じる特異的なバイオマーカーの探索も進め、過去の永久凍土不安定化を示す新たな指標の確立を目指している。