日本地球化学会年会要旨集
2025年度日本地球化学会第72回年会講演要旨集
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G2 環境地球化学・放射化学
東日本主要河川の網羅計測に基づいた流域別水銀収支と海洋流出フラックスの推定
*周藤 俊雄丸本 幸治古荘 皓基板井 啓明
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p. 19-

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抄録

火山活動や人間活動により大気中へ放出された水銀 (Hg) は、湿性・乾性沈着を経て陸域や海洋に沈着する。近年、陸域から海洋への水銀輸送における河川の役割が注目され、河川による年間の輸送量が大気沈着に匹敵するという推定もある (Liu et al., 2021a, b)。海外では河川水中水銀濃度の支配要因を流域スケールの収支比較から推定する研究がある一方 (Domagalski et al., 2016; Scherbatskoy et al., 1998; Shanley et al., 2008)、日本の河川水中水銀濃度の観測データは北陸地域に限定されているため (大野ら, 2020)、列島スケールでの水銀収支は未解明な点が多い。さらに、海水中メチル水銀の供給源としての陸域の役割を調べるうえでは、河川水中水銀の化学形態別分析も重要である。本研究では、東日本に分布する主要河川を対象にサンプリングを実施し、溶存態水銀 (DHg)、粒子態水銀 (PHg)、総水銀 (THg)、溶存態モノメチル水銀 (MeHg) の濃度を定量するとともに、流域別水銀収支と海洋流出フラックスを試算した。河川水中の化学形態別水銀濃度 (平均±標準偏差) は、DHg: 0.68±0.40 ng/L、PHg: 1.78±2.78 ng/L、THg: 2.48±2.93 ng/L、MeHg: 6.1±4.4 pg/Lであった。DHgは河川間で変動が小さいこと、および河川水中HgはPHgが主要形態であることが示唆された (PHg/THg: 57.4±18.5%)。得られたTHgの平均値と年間流量から流域別に試算された海洋流出フラックスは1.9±2.2 μg/m2/yrであり、大気沈着に対する割合は12.6±10.9%であった。河川による日本列島から海洋への年間水銀流出量は、THgで0.95±0.15 t/yr、MeHgで2.0×10-3 t/yrと推定された。THgの海洋流出フラックスは、陸域への大気沈着(湿性沈着: 3.8±0.11 t/yr、乾性沈着: 3.0±1.0 t/yr)の14%であった。大気沈着とのフラックス差は、沈着後に再び揮発する水銀や、植生・土壌への蓄積による吸収・保持の影響が大きいと推察される。本研究で試算したTHg海洋流出フラックスは、Liu et al. (2021b) が推定した8.3±6.0 t/yrと比較すると、平均値比較では一桁程度低い値であった。Liuらは浮遊粒子濃度 (SS) を変数とした経験式からPHgと固液分配係数Kdを試算しているが、中国河川のSSが日本河川より高く (水質調査データ, 環境省)、Kdが低いために (大野ら, 2020より試算)、日本河川の海洋流出フラックスを過大評価していると考えられる。

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