魚類の耳石や眼球は,形成時に摂取した餌や周辺の海水の同位体や微量元素の組成を保持する。こうした蓄積性組織に保持される経時的同位体情報を利用して,同位体組成の異なる地域間を生物が移動した履歴を復元する手法は「アイソロギング」と呼ばれ,近年注目されている。 本研究では,Harada et al. (2022)のマサバ(Scomber japonicus)成魚の水晶体試料から,窒素安定同位体比の推定と放射性炭素同位体比の測定を実施した。海洋の窒素同位体比分布にはYoshikawa et al. (2024) の月別アイソスケープデータを用い,時空間的に連続なデータセットを構築した。これらの同位体情報を結びつける状態空間モデルを構築し,マサバの回遊経路を推定した。放射性炭素同位体比の測定結果は窒素同位体比の変化が小さくなる成長後期に明確な変化を示し,多元素による制約が経路推定の精度の向上につながる可能性が示唆された。