2006 年 112 巻 2 号 p. 122-135
熊野トラフ東部における最終氷期末期から後氷期の堆積作用と相対的海水準変動に伴う陸域・沿岸域の環境変化の関連を検討した.熊野トラフ東部から採取された複数の深海底堆積物コアの層相変化は,海水準上昇による河口の後退と河川の氾濫原堆積物の堆積時期に,タービダイトの堆積が海底谷から遠い場所からなくなったことを示す.半遠洋性泥質堆積物の有機物組成は,海水準上昇期に花粉-草本質有機物・木質-石炭質有機物が減少する.これは海水準上昇期に形成された河川氾濫源や内湾(伊勢湾)に粗粒な陸源有機物がトラップされ,海盆底まで運搬されなくなったことを示す.以上の結果から,海水準上昇に伴う陸域・沿岸域の環境変化は,海盆底に供給される混濁流の頻度と有機物組成の双方を変化させたと考えられる.