抄録
紀伊半島北部の室生火砕流堆積物,石仏凝灰岩,古寺凝灰岩および同半島中部~南東部の大峯花崗岩類と熊野酸性岩類から得た52試料のジルコンを用いたフィッション・トラック(FT)年代測定を行った.これらと既報の玉手山凝灰岩,中奥火砕岩岩脈,潮岬火成複合岩類のジルコンFT年代はすべて15 Maに集中した.また大部分の岩体では赤色と白色のジルコンが混在する.室生火砕流堆積物,石仏凝灰岩,玉手山凝灰岩と熊野酸性岩のジルコン試料を調べた結果,赤色と白色のモード比は2 : 3であった.また,赤色と白色ではそれぞれ{100},{110}面が卓越するという類似性がある.FT年代の同時性とジルコンの特徴から,従来給源の不明であった紀伊半島北部に点在する室生火砕流堆積物と周辺の凝灰岩が,互いに同一の大規模火砕流堆積物として対比され,その起源は熊野酸性岩類と推定される.