地質学雑誌
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113 巻, 7 号
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総説
  • 三浦 大助, 和田 穣隆
    2007 年 113 巻 7 号 p. 283-295
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    平均噴出率・楕円率・ルーフアスペクト比を用いた検討から,圧縮テクトニクスと西南日本の中期中新世カルデラ火山の関係について,以下のような考察が得られた.カルデラ火山とテクトニクスの関係では,マグマの噴出しやすさが重要である.陥没構造の違いは,陥没の仕事量の相違である.西南日本のカルデラ火山群は,圧縮と引張の中間的性質を示す極めて大きな平均噴出率である.楕円率・規模・ルーフアスペクト比とトレンチ距離の関係では,トレンチ側で楕円率×活動規模が大きく,ピストン型カルデラが発生しやすいことがわかった.古応力方位はNNE-SSW~NE-SWの最大圧縮応力方位(σHmax)と推定され,この時代の中央構造線(MTL)の左横ずれ変位と一致する.さらに,火山フロントの後退条件を検討した結果,マグマ供給率の低下とテクトニック応力の増加によって起こると考えられる.
論説
  • 川上 裕, 星 博幸
    2007 年 113 巻 7 号 p. 296-309
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    紀伊半島の尾鷲-熊野地域に分布する熊野酸性火成岩類(熊野酸性岩)について詳細な地質調査を実施し,花崗斑岩岩体の産状と定置様式を検討した.調査地の熊野酸性岩は流紋岩溶岩(神ノ木流紋岩),流紋岩質火砕岩類(火砕流起源と貫入起源),花崗斑岩(熊野花崗斑岩),細粒花崗岩(不動谷花崗岩)よりなる.調査地の熊野酸性岩の大部分を占める熊野花崗斑岩は,その一部がコールドロン構造の中で環状岩脈(幅2 km以内)とそこから派生するシート状貫入岩(厚さ最大1 km以上)として産することが新たに判明した.シート状貫入岩の天井を調査地北西部の複数の地点で確認した.熊野花崗斑岩は従来言われてきたような溶岩湖が冷却固結した岩体ではなく,巨大な貫入岩体である可能性が高い.環状岩脈とそこから派生したシート状貫入岩という組み合わせは,火山-深成複合岩体の深部における特徴的な構造である可能性がある.
  • 新正 裕尚, 折橋 裕二, 和田 穣隆, 角井 朝昭, 中井 俊一
    2007 年 113 巻 7 号 p. 310-325
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    紀伊半島の中新世珪長質火成岩について全岩主成分,微量元素組成を報告し,その広域的特徴について検討した.その結果,外帯花崗岩質岩には重希土類元素の枯渇が見られず瀬戸内火山岩類の流紋岩は重希土類元素に極めて枯渇すること,外帯域のSタイプ,Iタイプ花崗岩の分布境界は北東・南西方向であり,高マグネシア安山岩の分布および現在の和達ベニオフ面の等深度線と沿うことを見出した.さらに外帯Sタイプ珪長質火成岩および瀬戸内火山岩類の流紋岩の希土類元素組成について,堆積岩の部分融解実験に基づくモデル計算を行い,融解が起こった深度の違いにより,前者は斜長石に富む溶融残渣を,後者はざくろ石に富む溶融残渣を持つことで,説明できることを示した.外帯Iタイプ花崗岩の希土類元素組成についても玄武岩質岩の部分融解実験に基づくモデル計算を行い,やや軽希土類元素に富む起源物質の部分融解で説明できる事を示した.
  • 岩野 英樹, 檀原 徹, 星 博幸, 川上 裕, 角井 朝昭, 新正 裕尚, 和田 穣隆
    2007 年 113 巻 7 号 p. 326-339
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    紀伊半島北部の室生火砕流堆積物,石仏凝灰岩,古寺凝灰岩および同半島中部~南東部の大峯花崗岩類と熊野酸性岩類から得た52試料のジルコンを用いたフィッション・トラック(FT)年代測定を行った.これらと既報の玉手山凝灰岩,中奥火砕岩岩脈,潮岬火成複合岩類のジルコンFT年代はすべて15 Maに集中した.また大部分の岩体では赤色と白色のジルコンが混在する.室生火砕流堆積物,石仏凝灰岩,玉手山凝灰岩と熊野酸性岩のジルコン試料を調べた結果,赤色と白色のモード比は2 : 3であった.また,赤色と白色ではそれぞれ{100},{110}面が卓越するという類似性がある.FT年代の同時性とジルコンの特徴から,従来給源の不明であった紀伊半島北部に点在する室生火砕流堆積物と周辺の凝灰岩が,互いに同一の大規模火砕流堆積物として対比され,その起源は熊野酸性岩類と推定される.
  • 山下 透, 檀原 徹, 岩野 英樹, 星 博幸, 川上 裕, 角井 朝昭, 新正 裕尚, 和田 穣隆
    2007 年 113 巻 7 号 p. 340-352
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    紀伊半島北部に分布する室生火砕流堆積物とその周辺の凝灰岩(石仏凝灰岩,古寺凝灰岩,玉手山凝灰岩)および外帯中新世珪長質岩類について,屈折率を用いた軽鉱物組合せモード分析を行った.その結果,紀伊半島北部の中期中新世珪長質火砕流堆積物の斜長石系列は,すべてオリゴクレース~ラブラドライトで特徴付けられることから,これら4者は対比された.加えて室生火砕流堆積物は外帯に分布する熊野酸性岩類の流紋岩質凝灰岩の一部と対比できた.これらのことから,室生火砕流堆積物と石仏凝灰岩,古寺凝灰岩,玉手山凝灰岩は15 Maの熊野地域のカルデラを給源とする同一の大規模火砕流堆積物であると推定される.また熊野酸性岩類の中のアルバイトで特徴付けられる流紋岩質凝灰岩は,同じ軽鉱物組合せをもつ中奥弧状岩脈を給源とする可能性がある.
  • 和田 穣隆, 藤田 千夏, 新正 裕尚
    2007 年 113 巻 7 号 p. 353-365
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    紀伊半島中央部,奈良県吉野町に露出する宮滝岩脈の形成過程を再検討した.同岩脈は従来,多量の岩片を含むため火砕岩であると考えられてきた.今回,野外および鏡下での観察により,宮滝岩脈は流紋岩と安山岩が互いにミングリングし,また包有物として含まれる岩石からなることが明らかとなった.さらに花崗岩が流紋岩・安山岩に包有されるとともに,流紋岩中の花崗岩は安山岩に包有された上で包有されている.いずれの包有物とも不定形状をなし高温時に塑性変形を受けたことを示している.これらのことから,流紋岩・安山岩両マグマは花崗岩体と岩脈定置前に一旦ミングリング・断片化した後,さらにミングリングを続けながら上昇して宮滝岩脈を形成したと推定できる.
  • 折橋 裕二, 岩野 英樹, 平田 岳史, 檀原 徹, 新正 裕尚
    2007 年 113 巻 7 号 p. 366-383
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    Sタイプ花こう岩類に含まれるジルコンの組成的特徴とその珪長質マグマの成因との関連性を明らかにするために西南日本外帯,熊野酸性岩から抽出した無色・赤色ジルコンについてLA-ICPMSによるU-Pb年代および微量元素組成を新たに測定した.ジルコン結晶内のクラックや微細包有物の効果を取り除いたU-Pb年代は15.5-16.7Maであり,同一試料から得られたFT年代に比べ若干(約1 Ma)古い年代を示した.無色・赤色ジルコンのREEパターンは右上がりで顕著なCeの正異常・Euの負異常を示し,これまで報告された花こう岩類のジルコンのREEパターンと比べ顕著な違いは見出されなかった.しかし,同ジルコンと平衡共存する珪長質メルトのREE組成を見積もると,無色ジルコンの共存珪長質メルト組成は花崗斑岩の全岩化学組成のより分化したものと類似し,赤色ジルコンの共存珪長質メルト組成はアダカイト的な特徴を示した.このことは熊野酸性岩の起源として異なる2種類の珪長質マグマの存在を示唆し,この組成差は付加体堆積物の部分溶融度の差を反映していると思われる.
  • 檀原 徹, 星 博幸, 岩野 英樹, 山下 透, 三田 勲
    2007 年 113 巻 7 号 p. 384-389
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/29
    ジャーナル フリー
    中期中新世前期(15 Ma)テフラの広域対比を提案する.記載岩石学的および放射年代学的分析から,房総半島のKn-1凝灰岩は約400 km離れた紀伊半島の火砕流堆積物と対比される.Kn-1は木の根層中に挟まる約16 m厚の珪長質凝灰岩で,紀伊半島北部の室生火砕流堆積物とそれに対比される火砕流堆積物(玉手山凝灰岩,石仏凝灰岩)と共通した造岩鉱物および火山ガラスをもつ.Kn-1のジルコンのフィッション・トラック年代は約15 Maで,紀伊半島の火砕流堆積物の年代と区別できない.玉手山-石仏-室生火砕流堆積物は熊野酸性岩類や大峯花崗岩類を含む紀伊半島外帯火成活動で起きたカルデラ噴火に由来することから,Kn-1凝灰岩も紀伊半島外帯(おそらく熊野)起源の広域テフラと考えられる.
口絵
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