2011 年 117 巻 1 号 p. 35-52
中期更新世に発達した古東京湾の湾奥に相当する埼玉県大宮台地北縁で全長350.2mの菖蒲コア(GS-SB-1)が掘削された.このうちMIS 11と9にあたるM4とM3海成層を対象に貝形虫化石分析を行った.結果として74種の貝形虫化石が産出した.M4海成層では内湾奥-中央部泥底種と潮下帯-亜沿岸帯砂底種が多かった.M4海成層は上下2つに区分され,下部は海進期の開放的な湾の潮下帯-亜沿岸帯で,湾砂底から湾泥底への周期的変動が認められた.上部は高海水準期の閉鎖的内湾中央-湾奥の環境で,陸からの有機物供給量などの違いを反映した変動が認められた.最大古水深は約20-50mと見積もられた.一方,M3海成層の堆積環境は閉鎖的内湾から開放的になり再び閉鎖的内湾環境へと変化した.M4とM3海成層の貝形虫化石群集はお互い異なり,これは堆積環境の違いとそれぞれの時代における貝形虫の生物地理的な違いが関連している.