地質学雑誌
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論説
測地観測データに基づく東北日本の最近120年間の地殻変動
西村 卓也
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2012 年 118 巻 5 号 p. 278-293

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抄録
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震以前の120年間の東北日本の地殻変動分布の特徴と時間変化を明らかにするため,測地観測(三角・三辺測量,水準測量,験潮,GPS連続観測)データの整理を行った.東北地方で卓越する水平歪みは,約90年間では南北伸張,最近10年間では東西短縮であるが,東北地方中軸部と日本海東縁歪み集中帯の顕著な東西短縮は両期間に共通していた.上下変動については,太平洋側の沈降が顕著であり,沈降速度は概ね一定であったが,福島県の太平洋側では,1939年から20年程隆起する時期があった.1994年のGPS連続観測開始以降の太平洋側の変動は,福島県において2000年頃から東西短縮速度の鈍化が見られた.この鈍化はプレート間固着分布の推定に基づくと,福島県・茨城県沖の固着が低下したことが原因と考えられる.このような変化は,巨大地震に至る一連のプロセスとして震源域の一部で固着の剥がれが進行していたことを示唆する.東北日本では,測地学的に計測された地殻変動と地学的に求められた地殻変動に矛盾があることが知られているが,測地学的歪み速度の中でもその時間スケールによりかなりの差がある.地殻変動の矛盾は東北地方太平洋沖地震の発生した今も完全に解消しておらず,現在進行中の余効変動が矛盾を解消する鍵になるかも知れない.
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© 2012 日本地質学会
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