抄録
富草層群(長野県)新木田層下部における堆積環境の時空分布が, 貝形虫化石群集と堆積相により明らかになった.本調査領域は7つの堆積相に区分された(I~VII) : I, 砂岩泥岩互層;II, 淘汰の良いアルコース質砂岩;III, 化石の多い泥質細粒砂岩;IV, 淘汰の良い中粒砂岩;V, 泥質中粒砂岩;VI, 砂岩と暗灰色泥岩の互層;VII, 塊状暗灰色泥岩.65種の貝形虫化石は, Qモードクラスター分析に基づき5つのクラスターに分けられた(A~E).これらはそれぞれ以下の特徴を持つ.Aは内湾奥種が優勢である.Bは湾中央部泥底に生息する種を多く含む.Cは湾奥~湾中央部に生息する種に加え, 温暖浅海種も含む.Dは上方に向かい温暖浅海種が増加し, 湾域種がほとんど産出しない.Eは岩礁や浅海の種が優勢である.堆積相とクラスターに基づく堆積環境は, 中央部から侵入した海進に伴う海域の広がりを示し, 基盤の凹凸が深い海域にも粗粒堆積物をもたらした.