抄録
神居古潭帯南部三石川地域では,白亜紀の前弧海盆堆積体(ニタラチ-蝦夷層序)が低温高圧型変成作用を被った付加体(岩清水コンプレックス)の上位に分布する.中部蝦夷層群歌笛層(アルビアン)は岩清水コンプレックスを不整合に覆う.歌笛層の基底部は,低温高圧型変成鉱物を伴う緑色岩礫やニタラチ-蝦夷層序起源の下部白亜系泥岩礫を含む河川成の堆積物である.河川成礫岩の存在は,最高部で20km以上の変成深度を示す岩清水コンプレックスが変成後20Maの短期間に上昇し,アルビアン期に陸上に露出したことを示す.岩清水コンプレックスの上昇は,蛇紋岩ダイアピルとして起ったのではなく,コンプレックス全体が一体となって上昇した.この上昇・陸化は,前期白亜紀における海山体の多量のアンダープレーティングや,沈み込み海洋地殻の若齢化がもたらす浮力が原因と推定される.