抄録
北海道北部,天塩中川地域の白亜系,下部蝦夷層群神路層から,蛇紋岩礫を含む礫岩が見出された.神路層は主に堆積物重力流からなり,蛇紋岩礫は含礫泥岩や厚層理砂岩に石灰質な生物片とともに含まれる.蛇紋岩礫は非常に強く蛇紋岩化し,初生的な鉱物組織を認識することは困難である.礫岩中には蛇紋岩礫と同時に,クロムスピネル,蛇紋岩片を核とするウーイドやそれらからなるウーライト質石灰岩礫も含まれている.砕屑性クロムスピネルの化学組成は枯渇したマントルかんらん岩からの供給を示唆している.蛇紋岩礫の変質・摩滅に対する抵抗性は非常に低いと考えられるので,蛇紋岩礫の堆積は供給源岩体に非常に近い地域でなされたと推定される.ウーライト質石灰岩の存在は,石灰質堆積物が形成されるような浅海にまで,蛇紋岩体が上昇したことを示唆している.従って,この含蛇紋岩礫岩の存在は,白亜紀前期の前弧海盆への蛇紋岩類の貫入と露出を示す.