日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: R5-P-2
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R5(ポスター)地域地質・地域層序・年代層序
これからの地質図を目指して-栃木県シームレス地質図第2版の試み-
*吉川 敏之
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抄録

近年、地質図のデジタルトランスフォーメーションの進展や政府のSociety 5.0の提唱など、近い将来の地質図・地質情報利用をイメージする機会が格段に増えた。2021年3月に閣議決定された科学技術・イノベーション基本計画および2021年5月に経済産業省から公表された知的基盤整備計画では、サイバー空間に質の高い信頼できるデータを集積し、デジタルツインを構築することが謳われている。

 これからの少子高齢化社会では、今まで以上に専門家不足・予算減少が予想され、従来型の研究進展や社会サービスの維持は困難が予想される。しかし、地質学の場合はスクラップアンドビルドではなくデータ蓄積型の学問であり、デジタルツインを実現することにより研究成果やサービスの質的・量的低下を防止し、むしろ新たな学問や産業の活性化を促進できると期待される。ただし、サイバー空間へのデータ集約への具体的な取り組み例はまだなく、絵に描いた餅に過ぎない。

 筆者は、栃木県を例として、過去の地質図・地質情報 (位置情報をもつデータ) の集約を試みたので報告する。具体的には、GSJ発行の「栃木県シームレス地質図 (参考資料1、2)」を基に、過去のデータを集約した「栃木県シームレス地質図 第2版」を制作中である。地質図は細分が可能となり、岩石・化石等の試料採取地点や露頭観察地点、走向・傾斜等の各種点データ、リニアメントやルートマップ・柱状図作成位置等の各種線データも表示できるようになる。例として、図には高原火山から塩原カルデラ付近の新旧地質図の比較を示す。属性情報には必ず出典表記を含むようにしてあるので、検索等の手段を通じてオリジナルデータを参照すれば詳細な情報を確認できるよう配慮している。したがって、従来の地質図と比べると、地質情報の地理空間索引図(ポータル機能)の性格が強くなる。

 このほか、現在仮実装中の特徴としては以下のようなものがある。

・地質図の凡例は20万分の1日本シームレス地質図V2の凡例 (参考資料3)を基本とし、細分化された地質区分にも対応できるよう、層群・層・部層の属性も用意している。

・古い成果であっても、現地で確認した証拠であるオリジナルの点データ (岩石・化石等の試料採取地点、走向・傾斜データ等) は可能な限り採録している。

・断層データおよび走向・傾斜データは、それぞれ他の線データ・点データとは分け、独自のレイヤーにしている。このため断層および走向・傾斜に固有のスタイル設定が容易。

・ファイルはOGC標準のGeoPackage形式で作成しているので特別なソフトを必要とせず、一般的なGISで編集可能。

 現在、科学技術・イノベーション基本計画等ではオープンサイエンスとデータ駆動型研究の普及も推進されている。地質のデータといえば位置情報をもち、共有されることがスタンダードになる日も遠くないかも知れない。それら位置情報付きオープンデータを重ね合わせるのは一瞬である。そうすれば新しいデータを反映した地質図の更新も容易である。こうして多くの人が一部を分担することにより大きな成果物を完成させるしくみは、オープンソースソフトウェア等で既に実績がある。近い将来、様々な分野でデジタルツインが作られることが予想されるが、地質の分野でも最新・最良の地質図を構築・共有し、専門家や一般ユーザーでさえも広く改良・更新に貢献できるしくみが確立されることを期待したい。

参考資料

1: 特殊地質図41 栃木県シームレス地質図. 地質調査総合センター.

https://www.gsj.jp/Map/JP/docs/misc_doc/misc_41.htm

2: 吉川敏之 (2020) 栃木県シームレス地質図 ~新たな地質図の試み~. GSJ地質ニュース, vol. 9, 83-89.

https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol9.no4_p83-89.pdf

3: 日本シームレス地質図V2凡例

https://gbank.gsj.jp/seamless/v2/legend.html

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