抄録
トウモロコシなどのNADP-ME型C4植物では,C4光合成中間代謝産物であるオキサロ酢酸やリンゴ酸の葉緑体包膜間の輸送が必須である.我々は,葉肉細胞で特異的に発現する2-オキソグルタル酸/リンゴ酸輸送体(OMT)と葉肉細胞あるいは維管束鞘細胞特異的に発現する2種のジカルボン酸輸送体(DCT)のcDNAを単離し,組み換えタンパク質の輸送特性を解析してきた.今までに得られた結果より我々は,これらの輸送体がC4回路においても機能していると考えて研究を進めているが,今回は両光合成細胞から単離した葉緑体への基質取り込み活性を調べた.
ゲノムサザン解析により,トウモロコシには1種類のOMT遺伝子しか存在しないことが明らかとなり,OMTは主に葉肉細胞において機能していると考えられた.また,オキサロ酢酸取り込み活性は葉肉細胞葉緑体の方が維管束鞘細胞葉緑体に比べて高かった.OMTはDCTに比べてオキサロ酢酸に対する親和性が高いことからも,C4光合成におけるオキサロ酢酸の葉肉細胞葉緑体への取り込みにOMTが積極的に関与していることは合目的的である.逆に,維菅束鞘細胞葉緑体においてはOMTよりもDCTがジカルボン酸輸送に関与しているものと考えられる.現在,オキサロ酢酸輸送活性に対する他のジカルボン酸の阻害効果も検討中であり,OMTとDCTの機能分化とその生理機能について考察したい.