日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T5-P-4
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T5.テクトニクス
第四紀黒部川花崗岩と北アルプスのネオテクトニクス
*伊藤 久敏
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抄録

北アルプスには第四紀の黒部川花崗岩と滝谷花崗閃緑岩が分布し,これらは巨大カルデラ噴火後の再生マグマが地下で固結し,急激な隆起・削剥を経て,現在地表に露出したものである(例えば,Ito et al., 2021).北アルプスの第四紀の急激な隆起の原因は,マグマの浮力によるとする説(Ito et al., 2021)と,マグマの浮力に東西圧縮が加わったものとする説(原山ほか,2003)がある.さらには,伊豆弧の衝突の影響が大きいという説(Spencer et al., 2019)もある.今回,著者は,北アルプスの成因は伊豆弧の衝突による広域的な応力(Fig. 1の①)の影響を受け,マグマの浮力により形成されたと考えられることを以下の点から主張したい. 北アルプス南部~中央アルプスにかけて分布する活断層の境峠断層(Fig. 1の②)は左横ずれ断層であり,この断層の北端(Fig. 1の③)には活火山の焼岳が分布する.これらの活断層や活火山は伊豆弧の衝突による南部からの広域的な応力(Fig. 1の①)の影響を受けたものと考える.この考えに基づいて黒部川花崗岩分布域を見てみると,Fig. 1の④で示した断層は,映画「黒部の太陽」でも紹介された幅80mの大規模破砕帯である.黒部川花崗岩は概ね1 Maに生成しており(Ito et al., 2021),この破砕帯は黒部川花崗岩体中に出来た破砕帯であること,破砕帯が生じるには,母岩がある程度冷却した後であることを考慮すると,この破砕帯が出来たのは恐らく過去数10万年の間であり,この破砕帯は活断層とも言える程度に最近の活動で生じたものと思われる.この破砕帯の北端(Fig. 1の⑤)には小説「高熱隧道」でも紹介された掘削時の岩盤温度175℃のトンネルが存在する.南側に断層が発達し,その北端に熱源があるという点では,黒部の大規模破砕帯は境峠断層と同様である.従って,黒部の大規模破砕帯や高熱隧道も伊豆弧の衝突の影響を受けたものと考えられる.Ito et al. (2021)は,北アルプスで1.76~1.55 Maに生じた3回の巨大噴火の原因としてフィリピン海プレートの沈み込み(と沈み込み方向の変化)を掲げたが,この点も含め,北アルプスの成因に伊豆弧の衝突が大きく関わっていると考えられる.すなわち,北アルプスは東西圧縮よりも北西-南東の圧縮(Fig.1の①)の影響を強く受けて成長したと考えられる. 文献 原山 智,大薮圭一郎,深山裕永,足立英彦,宿輪隆太,2003.飛騨山脈東半部における前期更新世後半からの傾動・隆起運動.第四紀研究,42,127–140. Ito, H., Adachi, Y., Cambeses, A., Bea, F., Fukuyama, M., Fukuma, K., Yamada, R., Kubo, T., Takehara, M. and Horie, K., 2021. The Quaternary Kurobegawa Granite: an example of a deeply dissected resurgent pluton. Sci. Rep., 11, 22059. Spencer, C.J., Danišík, M., Ito, H., Hoiland, C., Tapster, S., Jeon, H., McDonald, B. and Evans, N.J., 2019. Rapid exhumation of Earth’s youngest exposed granites driven by subduction of an oceanic arc. Geophys. Res. Lett., 46, 1259–1267. Fig. 1. Geology in the northern Japanese Alps and its vicinities.

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