日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T6-P-4
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T6.堆積地質学の最新研究
(エントリー)深層学習モデルを用いた混濁流の初期条件および順計算モデルパラメーターの推定
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*藤島 誠也成瀬 元
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キーワード: 混濁流, 逆解析, 深層学習
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抄録

深海底では,乱流によって浮遊砂を支持し周囲流体との密度差を駆動力として流れ下る混濁流が間欠的に発生している.混濁流の発生要因には様々なものがあるが,現世の海底観測から,混濁流は津波によって発生しうることが指摘されている [1].津波起源混濁流の水理条件(流れの厚さ・堆積物濃度など)が発生源の津波の規模を反映するならば,混濁流堆積物(タービダイト)の逆解析は,過去の巨大津波の規模を推定するために重要な手がかりを提供する可能性があるだろう.そこで,本研究はタービダイトから混濁流の初期条件と順計算モデルパラメーターを推定する深層学習モデルを構築した.この際に,順計算モデルとしては混濁流の水平2次元4方程式モデルであるturb2dを採用し,水槽実験により本研究の逆解析モデルの性能を検証した.本研究の逆解析モデルの構築手続きは以下の通りである.まず,様々な初期条件およびモデルパラメーター(摩擦係数など)のもとで数値計算を繰り返し,訓練データを生成する.次に,生成した訓練データを用いて初期条件・モデルパラメーターと堆積物分布・流速・濃度・流れの厚さとの関係を全結合ニューラルネットワークに学習させ,堆積物から混濁流の初期条件・モデルパラメーターを推定するモデルを構築した.その後,訓練データと独立に生成した人工のテストデータによりモデルの性能評価を行ったところ,流れの挙動にあまり影響を与えない一部のモデルパラメーターを除き,本研究のモデルは高い精度で堆積物から混濁流の初期条件およびモデルパラメーターを推定できることが示された.つぎに,実験水槽 (2.2 ×4.5 ×1.5 m) 内で混濁流を発生させ,その実験堆積物に対して本研究のモデルを適用した.さらに,モデルによって推定された初期条件およびモデルパラメーターを用いて順計算を行い,層平均流速・層平均堆積物濃度・流れの厚さ・流れの継続時間・堆積物の各粒径階ごとの面積あたり堆積量について,実際の測定値と予測値の比較を行った.その結果,各粒径階の面積あたり堆積量の分布は測定値と逆解析結果が良く一致した.また,堆積物の総濃度・流れの厚さ・流速・流れの継続時間については,測定値と逆解析結果の間の相対誤差は-0.79–78%となり,本研究の逆解析モデルが実験で発生させた混濁流の水理条件を良く再現することが示された.ただし,個々の粒径階の堆積物濃度については復元精度が低く,測定値と逆解析結果の間の相対誤差は26–5800%であった.これについては,そもそも濃度の測定精度に問題があった可能性も考えられ,今後の検討が必要である.本研究の成果は,深層学習逆解析モデルがタービダイトから混濁流の水理条件を精確に復元できることを示している.実際の前弧海盆や海溝には侵食や隆起に起因する凹凸地形が分布しているが,本研究で採用した水平2次元モデルはそのような複雑な地形上を流れる混濁流を十分に再現することができるものである.今後は,本研究で開発された逆解析モデルを実際の海底で採取されたタービダイトに対して適用することで,過去の混濁流発生イベントの性質が解明されるものと期待される.引用文献[1] Kazuno Arai, Hajime Naruse, Ryo Miura, Kiichiro Kawamura, Ryota Hino, Yoshihiro Ito, Daisuke Inazu, Miwa Yokokawa, Norihiro Izumi, Masafumi Murayama, Takafumi Kasaya; Tsunami-generated turbidity current of the 2011 Tohoku-Oki earthquake. Geology 2013;; 41 (11): 1195–1198.

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