日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T6-P-13
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T6.堆積地質学の最新研究
2011年津波堆積物にみられる堆積学的特徴の多様性
*松本 弾澤井 祐紀谷川 晃一朗行谷 佑一宍倉 正展楮原 京子藤原 治篠崎 鉄哉
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抄録

古津波堆積物の正確な理解には,現世の津波堆積物を研究することが1つの鍵となる.2004年スマトラ島沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震などによる現世の津波堆積物に関して,堆積学的・古生物学的・地球化学的な研究が数多く行われ,多くの知見が蓄積されてきた.このうち,堆積物の層厚や内部の堆積構造といった堆積学的な特徴は,基本的な記載事項としてほぼ全ての報告に載せられているが,粒度に関しては「細粒砂」などの肉眼観察上の記載や,1地点につき数点の試料の分析結果を代表値として報告されていることがほとんどであった.  演者らは,2011年の津波直後から宮城県~福島県にかけての8地域,123地点において津波堆積物に関する現地調査を行い,このうち49地点で試料採取を行っていた.Matsumoto et al. (2023) は,123地点の津波堆積物の記載やデータを整理するとともに,49点の試料について垂直方向に1 cmごとに粒度分析を行って平均粒径や含泥率などを算出し,層厚や堆積構造,軟X線撮影画像などとあわせて広範囲に広がる津波堆積物の堆積学的特徴を公表している.このような現世津波堆積物のアーカイブデータは,古津波堆積物の識別にとって有効な指標となるだけではなく,数値シミュレーションによる流れの復元や,数値モデルの評価に有用である.特に本論文の粒度データは,平均粒径などの統計値だけではなく,分析結果(測定区間:−5.25~6.25 φ,0.25 φ間隔)の生データが補足資料として公開されている.このような高解像度の粒度データはこれまでに公開された例は多くなく,数値シミュレーションの時間的分解能をより高めることにつながると考えられる. 以下にMatsumoto et al. (2023)で示された2011年津波堆積物の特徴を簡単に述べる.調査地域は,ほぼ平坦な仙台平野の5地域(勾配1‰以下)と,相双丘陵を開析した谷底平野の3地域(勾配1~2‰)である.2011年の津波は,前者5地域では約3~5 km程度,後者3地域では約2 km程度内陸まで浸水したことが明らかになっている(Nakajima and Koarai, 2011).津波堆積物は内陸約4 kmまでの範囲に形成されており,平均層厚は約9 cm(最大層厚65㎝)であった.1地点ごとの含泥率は0.4~96.6%と大きなばらつきがみられるものの,平均では10.6%と下位の土壌(平均含泥率32.9%)より低い値を示した.1地点ごとの平均粒径は−0.5 ~+2.7 φとばらつきがみられるが,平均では1.6 φと下位の土壌(平均粒径1.7 φ)とほぼ同じであった.大局的にみると,内陸に向かって薄層化,含泥率増加,細粒化する傾向が認められたが,これは一般的な津波堆積物の特徴である. 内部の堆積構造としては,級化/逆級化構造やマッドドレイプ,平行葉理が多くの堆積物でみられたほか,級化/逆級化を繰り返すユニット構造がみられることもあった.特に,逆級化構造を示す堆積物は海岸線から約0.7 kmまで,平行葉理がみられる堆積物は海岸線から約1.7 kmまでの範囲に限られており,この範囲には比較的強い流れの影響があったことが示唆される. 仙台平野周辺では,2011年の地震と同規模であった可能性がある869年貞観地震による津波堆積物が広く分布していることが知られている(たとえば,阿部ほか,1990).今後,古津波堆積物と現世津波堆積物の比較研究が進めば,貞観津波の流速や波高などの より詳細な状況を復元できる可能性がある. References阿部 壽ほか (1990) 地震第2輯,43, 513–525.Matsumoto et al. (2023) PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-023-00553-3.Nakajima and Koarai (2011) Bull. Geospat. Inf. Auth. Japan, 59, 55–66.

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© 2023 日本地質学会
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