主催: 一般社団法人日本地質学会
会議名: 第131年学術大会(2024山形)
回次: 131
開催地: 山形大学
開催日: 2024/09/08 - 2024/09/10
古第三紀暁新世後期から始新世前期は,暁新世-始新世温暖化極大 (PETM) を筆頭に,「超温暖化 (Hyperthermals)」とよばれる急激な温暖化イベントが繰り返し発生したことで知られ,現在人類が直面する地球温暖化問題の過去におけるケーススタディとして注目を集めている.本研究では,地球の炭素循環の重要な要素のひとつである海洋の生物生産性が,Hyperthermalsにおいてどのように変動したのかを明らかにし,急激な温暖化に対する海洋の生物圏の応答の理解を目指す.
先行研究により,海洋の生物生産性はHyperthermalsに伴い変動し,地球の炭素循環に大きな影響を与えた可能性が指摘されている[1].こうした過去の生物生産性の復元を目的とした研究の多くで,堆積物中における重晶石 (BaSO4) の蓄積速度 (barite accumulation rate, BAR) が用いられてきた.BARは,海水中で有機物が分解される際に重晶石が析出することを利用したものである.しかしながら,BARの値は堆積速度に大きく依存することに加え,続成作用の影響を受けやすいなど,未だ多くの課題が存在する.
そこで本研究では,過去の海洋の生物生産性の新たな指標として近年有望視されているバリウム安定同位体比 (δ138/134Ba) に着目した.本指標は,有機物の分解時に析出する重晶石と海水の間で生じる同位体分別に基づくものであり,過去の海洋生物生産性の復元に応用されつつある[2].本発表では,中緯度インド洋Exmouth Plateau (ODP Hole 762C) および南大洋インド洋セクター Kerguelen Plateau (ODP Hole 738C) で採取された海底炭酸塩堆積物コアのHyperthermals層準におけるBa同位体比を報告する.そして,同位体マスバランス計算を用いて,両サイトで見られる δ138/134Ba の変動がどのような地球化学的事象を意味しているのかを議論する.
[1] Ma et al. (2014) Nat. Geosci., 7, 382-388; [2] Miyazaki et al. (2023) Geochem, J., GJ23011.