日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
t-PA投与が著効した後,一過性無脈性心停止を呈した高齢者心原性脳塞栓症の1症例
山本 有希鈴木 誠川田 好高鴨川 賢二岡本 憲省奥田 文悟
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2009 年 46 巻 4 号 p. 352-357

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抄録

症例は77歳女性,僧帽弁狭窄症に合併した心房細動に対してワーファリンによる抗凝固療法を行っていた.当科定期外来受診後の帰宅タクシーの中で突然の右上肢脱力を自覚した(15時50分).直接近医を受診し,右片麻痺を主訴とする急性期脳梗塞疑いの診断を受け当院三次救急に搬送された(16時55分).来院後速やかに神経症状は消失した.緊急頭部CT検査には異常所見なく,緊急MRI検査の拡散強調像にて左島皮質に高信号病変を認めたが明らかな出血と梗塞所見はなく一過性脳虚血発作(transient ischemic attack,TIA)と診断しヘパリンによる加療を開始した(18時00分).同日20時30分に再び右片麻痺,右顔面神経麻痺,構音障害が出現した.頭部CT検査にて虚血性脳梗塞発症と診断しtissue plasminogen activator(t-PA)の静脈内投薬を開始した(22時35分).t-PA投与後90分にて神経症状はほぼ消失した(0時5分).t-PA投与93分後に突然の徐脈から一過性心静止になった(0時8分).心肺蘇生にて速やかに回復し,翌朝には意識清明で軽微な右顔面神経麻痺と右上肢の麻痺を残すのみであった.第14病日に,僧帽弁置換術ならび左心耳縫縮術を施行した.第40病日,modified Rankin scale 0にて退院した.TIA後の脳梗塞に対してt-PAによる経静脈的血栓溶解療法が著効し且つt-PA投与後に一過性心停止を来たした高齢者心原性塞栓症の1症例を経験した.t-PA投与後の一過性心停止については過去に報告例がなく,心停止の原因としては島皮質領域の障害の関与が示唆された.

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© 2009 一般社団法人 日本老年医学会
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