日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
大腿骨頸部骨折に関連する神経症状の検討―29年間のSMON検診における縦断的研究―
小長谷 正明久留 聡小長谷 陽子
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 47 巻 5 号 p. 445-451

詳細
抄録
目的:多彩な神経症状を示す亜急性脊髄視神経ニューロパチー(SMON)患者の大腿骨頸部骨折の頻度を検討するとともに,大腿骨頸部骨折惹起の危険因子となる神経症状を明らかにする.方法:対象は「スモンに関する調査研究班」による1979~2007年検診受診患者3,269人,のべ24,187回分の検診票より,大腿骨頸部骨折症例を抽出した.臨床症状の検討は,全大腿骨頸部骨折患者のうち,骨折前2年以内に検診受診者は80例であり,この大腿骨頸部骨折群と,年齢・性・罹病期間をマッチした大腿骨頸部骨折を起こさなかったSMON患者160例を対照群とした.検討した臨床症状は,視力,歩行能力,起立位,下肢振動覚,下肢筋力,下肢痙縮,下肢触覚,下肢痛覚,異常知覚である.また,日常生活動作能力指標であるBarthel Index得点を比較した.結果:大腿骨頸部骨折は208人,全検診受診者の6.4%に230回みられ,男女比は21:187であった.年齢階層別の1万人あたりの年間発生件数は,女性では50歳代:7.74件(日本人女性全体は2.41件)と60歳代:18.5件(9.11件)で,それぞれ日本人全体と比較して,有意に頻度が高かった(いずれもp<0.002).男性は40歳以下:2.34件(日本人男性全体は0.3件)(p<0.02)と50歳代で8.80件(1.82件)(p<0.002)で日本人男性全体より有意に高く,80歳代:8.85件(58.6件)(p<0.02)では,有意に低かった.臨床症状の検討では,大腿骨骨折群は対照群と比較して,歩行障害では杖歩行が多く(p<0.05),下肢振動覚の高度障害が多かった(p<0.025).他の神経症状の重症度の比率やBarthel Index得点は両群間に差はなかった.結論:多彩なSMONの神経症状のうち,振動覚障害,すなわち深部感覚障害に根ざす歩行障害の患者に大腿骨頸部骨折が多かった.深部覚障害が認められる人は,転倒に注意すると同時に,医学的な原因追及や治療が必要である.
著者関連情報
© 2010 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top