抄録
目的:地域在住高齢者において認知機能低下者を把握し,認知症の早期発見,早期診断に導くことは,高齢社会において,今後増加が見込まれる認知症の対策として重要である.従って,効果的な認知機能のチェック方法を用いて,軽度の認知機能低下者を把握することが求められる.時計描画テストは,従来は視空間機能の評価法とされたが,認知機能のスクリーニングとしても用いられるようになった.地域在住の高齢者に対して,郵送法で時計描画テストを施行し,認知機能スクリーニングとしての有用性を検討した.方法:A県O市の65歳以上の全住民14,949人に対し,郵送法で時計描画テストを行った.回答率は58.1%であった.定量的評価はFreedmanらの方法により,また何も描かれていないものや明らかに異常と考えられるものは定性的評価を行った.さらに時計の中心点が垂直方向に偏倚している度合を測定した.結果:時計描画テストの各項目の正答率は,項目ごとにばらつきがあった.総得点の平均値は,男性全体では14.16±1.67点,女性全体では14.40±1.36点であり,13点以下の低得点者は男性で16.09%,女性で11.70%であった.年齢と総得点との間には有意な負の相関関係がみられた(p=0.019)が,教育年数と総得点の間には相関関係はみられなかった.認知機能障害の可能性があると考えられる異常を示した240例(全体の3.24%)の平均総得点は8.61±3.13点で,それ以外の7,164例の平均総得点(14.47±0.98点)より有意に低かった(p<0.001).全体の50.2%では中心点偏倚はみられず,36.4%では上方偏倚,13.4%では下方偏倚がみられた.総得点が13点以下の群では,上方偏倚39.8%,下方偏倚14.0%,合計53.8%と,総得点14~15点の群に比べて,偏倚を示した人の割合が有意に高かった(p=0.025).結論:今回の検討では,地域在住高齢者のなかに一定の割合で存在する認知機能障害の可能性のある対象者を,時計描画テストによって把握できることが示唆され,認知機能スクリーニングとして有用であると考えられた.