日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
地域在住高齢者の認知機能と身体活動との関連性―4年間の縦断調査の結果から―
小長谷 陽子渡邉 智之太田 壽城
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2012 年 49 巻 6 号 p. 752-759

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抄録

目的:地域在住高齢者において,運動が認知機能にもたらす影響について検討する.1)ベースライン(BL)の認知機能と運動習慣との関連,2)BLの認知機能と4年後の認知機能との関連,3)BLでの運動習慣と4年後の認知機能との関連を調べる.方法:2006年および2010年にA県O市の65歳以上の全住民に生活実態調査を行った.内容は疾患の有無,健康管理,自立度,家族や友人・近所との付き合い,経済状態,栄養や身体活動,社会活動,QOL等に関するものであり,回収率はそれぞれ62.1%,63.4%であった.同時に電話による認知機能検査(TICS-J)に協力を求め,それぞれ2,431人,2,975人から有効な回答を得た.両年ともにTICS-Jを受けた1,040人について,生活実態調査のなかの運動に関する項目と認知機能との関連を解析した.結果:BLでは,認知機能正常群は870人(年齢:75.87±4.96歳,平均教育年数11.05±2.41年),低下群は170人(79.19±6.22歳,9.61±2.23年)であった.低下群は正常群に比べ,年齢は有意に高く(p<0.001),教育年数は有意に短かった(p<0.001).TICS-Jの得点は正常群では36.02±1.89(mean±SD)点と低下群30.19±2.25点より有意に高かった(p<0.001).BLでは,移動能力はModel 1(調整なし)でOR=0.514(p=0.029)と,移動能力に支障がない者は,支障ある者に比べ,認知機能低下リスクは有意に軽減していた.歩行速度は,他の人より速い者では,OR=0.392(p<0.001),同じ者では,OR=0.357(p<0.001)と,いずれも歩行速度が遅い者に比べ,認知機能低下リスクの有意な軽減を示した.BLの点数が41点満点の人には4年後の認知機能低下者はおらず,32点以下の群では低下者は24.7%と,33点以上の群で低下した人(9.9%)に比べ有意に多かった(p<0.001).BLで認知機能正常の人の,4年後の認知機能と運動・身体活動との関連性は,歩行速度が速い者では調整なしのOR=0.423(p=0.004)および同じ者ではOR=0.355(p=0.003)と,遅い者より認知機能低下に対する有意なリスク軽減を示した.運動頻度では,週3~4回運動する者で,OR=0.401(p=0.030)と有意な関連を示した.結論:運動機能,特に歩行速度は認知機能およびその維持に関連する要因である.

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© 2012 一般社団法人 日本老年医学会
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