日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
地域在住高齢者における抑うつと転倒リスクの関連
田中 美加久佐賀 眞理牛島 佳代渡辺 知保
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2012 年 49 巻 6 号 p. 760-766

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抄録

目的:転倒予防対策は介護予防において欠かせない対策の一つである.転倒事故を防止するためには,ハイリスク者のリスク因子を低減させることに焦点を当てた研究が必要であるが,未だ十分に行われているとは言えない.そこで本研究では,地域在住高齢者を対象に,抑うつと簡易転倒リスクスコアによって評価された転倒リスクとの関連について調べた.方法:農村部の1つの村に居住する65歳以上の高齢者全員(563名)を対象とし,郵送による自記式質問票調査を行った.基本属性として性,年齢を,また健康状態に関する項目として,転倒に関連するとされる疾病の治療の有無と睡眠薬の使用状況,認知機能,身体機能について調査した.抑うつの評価には高齢者用うつ尺度短縮版を使用した.転倒リスクの評価には簡易転倒リスクスコアを用いた.抑うつと転倒リスクとの関連の強さは,多重ロジスティック回帰モデルを用いて調べた.結果:未調整のモデルや転倒リスクと有意な関連を認めた要因で調整したモデルと同様,全ての要因(年齢,性,循環器系疾患や筋骨格系疾患,眼疾患,精神行動障害,神経系疾患の現病歴,睡眠薬の使用,認知機能障害)で調整した最終モデルにおいても,抑うつと転倒リスクとの間に有意な関連が認められた.最終モデルにおいて,抑うつが認められる場合に簡易転倒スコアで転倒リスクありと評価されるオッズ比は2.28(95%信頼区間:1.31~3.96)であった.結論:本研究は地域在住高齢者において,抑うつと転倒リスクが関連することを示した.本研究は,抑うつに対する対策が転倒ハイリスク者のリスクを低減させ,結果的に転倒の予防につながる可能性を示唆している.

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© 2012 一般社団法人 日本老年医学会
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