日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
治療に難渋した高齢者・後天性血友病Aの2例
斉藤 誠森岡 正信
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2016 年 53 巻 4 号 p. 424-430

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抄録

後天性血友病Aは凝固第VIII因子に対する自己抗体(インヒビター)が原因と考えられる出血性疾患である.その治療は出血に対する止血治療とインヒビターの除去を目的とした免疫学的療法に大別されるが,今回,われわれはそれぞれの治療に難渋した高齢者・後天性血友病Aの2例を経験したので報告する.症例1は89歳,女性.10日程前から左下腿に皮下出血がみられ,入院となる.APTTが127.7秒と延長,第VIII因子活性は1.0%と低下,第VIII因子インヒビターが陽性(48 BU/ml)であり,後天性血友病Aと診断した.入院後に下血もみられ,大腸内視鏡検査では粘膜から血液の滲出を認めた.プレドニゾロン(PSL 0.5 mg/kg)投与を開始,3週間後からシクロホスファミド(CPA 50 mg)を併用し,治療開始から約2カ月後で第VIII因子インヒビターは3.4 BU/mlまで低下した.しかし,活性型第VII因子製剤(rFVIIa)の投与中はほぼ止血できるが,休薬後に再出血をきたし,止血のコントロールが不良となり,さらに肺炎も併発し,死亡された.症例2は81歳,女性.4カ月前から皮下出血がみられ,貧血(Hb 9.2 g/dl)とAPTTの延長(78.7秒)を認め,入院となる.第VIII因子活性は0.9%と低下,第VIII因子インヒビターは1,364.9 BU/mlと著しく高値を呈し,後天性血友病Aと診断した.PSL 0.5 mg/kgで治療を開始し,1カ月後からCPA 50 mgを追加したが,奏効せず,出血徴候は遷延し,Hbは8.0 g/dlまで低下した.その後に肺炎も併発したが,リツキシマブ(375 mg/m2)を週1回,4週間投与した後から第VIII因子インヒビターが確実に低下し始め,治療介入から1年5カ月後にインヒビターが消失した.この間,時に鼻出血や打撲部の皮下出血を呈したが,一度もrFVIIaなど,バイパス止血製剤を投与することなく止血できた.

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