日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
杏林大学病院高齢診療科,もの忘れセンターに通院中の患者におけるサルコペニアの実態調査ならびに転倒との関連についての検討
田中 政道永井 久美子小柴 ひとみ松井 敏史神﨑 恒一
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2017 年 54 巻 1 号 p. 63-74

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抄録

目的:外来通院患者におけるサルコペニアの実態調査を行い,過去の転倒歴とサルコペニア,またこの判定3要因との関係について調査した.方法:65歳以上の外来通院患者283名(男性115名,女性168名)を対象とし,EWGSOPの基準を用いてサルコペニアを判定した.カットオフ値は補正四肢筋量(BIA法)で男性8.87 kg/m2,女性7.00 kg/m2,握力で男性30 kg,女性20 kg,歩行速度で0.8 m/s以下とした.その他併存疾患,CGA項目,下腿周囲長,転倒関連項目を測定し,サルコペニアと転倒との関連について解析した.結果:サルコペニアと判定されたのは男性70名(60.9%),女性88名(52.4%)であった.男性サルコペニア群では非サルコペニア群と比較して年齢が高い傾向にあり(p=0.054),体重・BMIは低く(p<0.01),認知症の頻度が高かった(p=0.023).女性サルコペニア群では体重・BMIが低く(p<0.01),高脂血症の頻度が低かった(p=0.021).補正四肢筋量は,男女ともに歩行速度,転倒関連項目と関連は認められず,一方,握力と歩行速度は互いに相関があり,双方とも転倒関連項目と相関を示した.過去1年間に転倒した対象者は91名(32.2%)で,サルコペニア判定と補正四肢筋量は転倒/非転倒群間で有意差は認めなかったが,握力と歩行速度は転倒群で低かった(p<0.02).多重ロジスティック解析の結果,男性で握力が弱いこと,女性で歩行速度が遅いことと糖尿病を有することが転倒のリスク要因であった.結論:外来患者のサルコペニアの頻度は地域在住高齢者を対象とする先行研究と比較して高かった.ただし,この結果にはBIA法で筋量のカットオフ値が定まっていないという問題があり,解釈に注意が必要である.サルコペニアを転倒の一要因と考える場合,対象集団によって,またサルコペニアの判定だけでなく判定要因である筋力や歩行機能に着目する必要があると考えられる.

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© 2017 一般社団法人 日本老年医学会
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