日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
高齢入院患者における歩行速度と歩幅を維持するための等尺性膝伸展筋力閾値
多田 実加大森 圭貢最上谷 拓磨佐々木 祥太郎堅田 紘頌石山 大介小山 真吾畑中 康志榊原 陽太郎
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2018 年 55 巻 4 号 p. 624-631

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抄録

目的:歩行速度と歩幅は下肢筋力と非線形関係にあり,下肢筋力が一定の水準以下になると著しく歩行速度と歩幅が制限されることが報告されている.加齢にともなう歩幅の制限は,歩行速度の低下に先行して生じることが報告されており,これらの下肢筋力値は異なる可能性がある.そこで本研究の目的は,高齢男性入院患者を対象に下肢筋力低下に伴う歩行速度および歩幅が著しく制限されはじめる下肢筋力値を明らかにすることである.方法:理学療法を実施した65歳以上の男性入院患者786名を対象に,等尺性膝伸展筋力(kgf/kg),10 m最大歩行速度測定時の歩行速度(m/sec)と歩幅(cm)を調査した.脳血管障害および運動器疾患,認知症を有する者は除外した.歩行速度および歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係をそれぞれ線形と非線形のモデルに適合させ,R2値を比較した.またデータを等尺性膝伸展筋力値で2分割し,それぞれ一次関数に当てはめ2式の残差平方和の和が最小になる筋力値を求めた.結果:歩行速度および歩幅と等尺性膝伸展筋力の間の各R2値はいずれも非線形モデルが高値であった.残差平方和の和が最小になる筋力値は,全対象者では歩行速度が0.33 kgf/kg,歩幅が0.43 kgf/kg,75歳未満の群では歩行速度と歩幅とともに0.30 kgf/kg,75歳以上の群では,歩行速度が0.32 kgf/kg,歩幅が0.43 kgf/kgであった.結論:75歳未満の高齢男性入院患者では等尺性膝伸展筋力0.30 kgf/kgを下回ると歩行速度と歩幅は著しく制限され,75歳以上の者では等尺性膝伸展筋力0.43 kgf/kgを下回ると歩幅が,0.32 kgf/kgを下回ると歩行速度がそれぞれ著しく制限される.

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© 2018 一般社団法人 日本老年医学会
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