日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
絶食・抗菌薬投与により凝固能異常が疑われた1例
古見 嘉之清水 聰一郎小川 裕介廣瀬 大輔高田 祐輔金高 秀和櫻井 博文前 彰羽生 春夫
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2019 年 56 巻 2 号 p. 204-208

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抄録

一般的にN-methyl- tetrazolethiol(NMTT)基を持つ抗菌薬による凝固能異常や腸内細菌叢の菌交代に伴うVitamin K(VK)欠乏による凝固能異常がよく知られている.今回我々は,NMTT基を有さない抗菌薬で,絶食下で凝固能異常をきたした症例を経験したので,報告する.

症例は91歳,男性.体動困難を主訴とし,気管支炎による慢性心不全急性増悪の診断にて入院.禁食,補液,抗菌薬に加え利尿剤にて加療.第3病日,左前頭葉出血を発症し,保存的加療,末梢静脈栄養を10日間投与後,中心静脈栄養を投与した.抗菌薬の投与は14日間の後,終了となった.経過中28病日,カテーテル関連血流感染を発症した為,中心静脈栄養から末梢静脈栄養に変更し,バンコマイシン(VCM),セファゾリン(CEZ)が投与された.投与初日のプロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)は1.2だったが,徐々に上昇し第35病日目に7.4と延長.対症療法としてメナテトレノン10 mg,新鮮凍結血漿(FFP)を投与した.血液培養にてメチシリン感受性コアグラーゼ非産生ブドウ球菌が検出され,VCMは中止とした.中止後第36病日目でPT-INRが1.1まで改善するも第42病日目では1.9まで上昇したため,CEZによるVK欠乏と考え,再度VK,FFPの投与を行い改善した.CEZが終了後,PT-INRは正常範囲内に改善した.Methyl-thiadiazole thiol(MTDT)基を持つCEZは稀ではあるが凝固因子の活性化を阻害すること,長期間の禁食下での抗菌薬投与は腸内細菌による内因性のVKの産生抑制により凝固能異常を招く可能性があり,この双方が本症例では関与する可能性が考えられた.凝固能の定期的検査によるモニタリングが必要である可能性が示唆された.

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© 2019 一般社団法人 日本老年医学会
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