1976 年 13 巻 5 号 p. 322-333
福岡市内一地域の成人病検診 (40歳以上) において, 5年間の心電図変化, 循環器系死亡者の検診時成績について検討した.
正常血圧者は加齢と共に減少するが, 5年間の経過中に境界域高血圧が減少し, 収縮期高血圧が明らかな増加を示した.
心電図所見では軽度のST, Tの異常は50~60歳代の女子に多く, 5年間の経過でもこの年代に心電図上軽度の虚血性変化を認めるものが増加した. 左室肥大所見は男女群間で出現率に差を認めなかった.
平均QRS, Tベクトルは正常血圧・正常心電図群では5年間の経過でQRS, Tともベクトルの大きさを減じ, QRSベクトルは左後上方へ時針式に廻り, Tベクトルは反時針方向へ右前方へ移動する傾向を示し, QTcも延長を示し, subclinical な心筋障害の進行が示唆される.
同地域での検診を受けた後5年間の脳血管疾患, 心疾患死亡例 (それぞれ16, 10例) のうち, 検診時異常なしと判定されたものは脳血管疾患死亡の2例のみで, 残りの24例はすべて高血圧症, 高血圧性ないし虚血性心疾患の診断を受けていた.
脳血管疾患群では高血圧を伴うものが多く (正常血圧例13%), 心疾患群では正常血圧が40%にみられ, 収縮期高血圧は認めなかった.
死亡例の心電図所見は, 脳血管疾患群では31%が正常心電図で, 虚血性所見は19%にしか認められなかったのに対し, 心疾患群では正常心電図は認められず, 90%に虚血性所見が認められ, 循環器系検診における血圧測定, 心電図の重要性が明らかであった.