日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
片麻痺における肩手症候群
第1報 片麻痺に合併する血管運動異常との関連について
江藤 文夫
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1978 年 15 巻 5 号 p. 421-428

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抄録
肩手症候群は脳卒中後片麻痺の20%前後に合併し, 疼痛と関節可動域制限が著しいことから, リハビリテーションの阻害因子として重視される. 本症候群は反射性ジストロフィーとしてまとめられ, カウザルギーなどと類縁のものと考えられているが, その病態生理は不明な点が少なくない. 症状的には末梢循環における血管運動異常が重視される. そこで, 病態生理を明らかにするため, サーミスタ皮膚温度計, 光電指尖容積脈波計, 超音波ドップラー血流計を用いて, 片麻痺患者の末梢循環と血管運動異常について検討した.
片麻痺患者の手では, 肩手症候群を呈する群では麻痺側で有意に皮膚温の上昇を認め, 指尖脈波についても脈波高の増大を認めた. 片麻痺発症後の時間的関連をみると, 3カ月以内の症例で著明であった. 本症候群の大半が脳卒中後3カ月までに出現することから, いくつか指摘される発症因子の中で, 麻痺肢血流増加に最も注目すべきである.
遠隔性局所冷却刺激により生ずる上肢の血流変化を観察すると, 本症候群を呈する群では正常者群に比し有意に反応の低下がみられ, 麻痺側でその傾向がより目立った. これは脊髄以上に反射中枢を有する体性交感神経反射の1つと考えられるが, この反射の低下を認めたことは, 体性神経と交感神経を介した自己強化回路が脊髄介在ニューロン群において成立し, その反射亢進状態として本症候群の病態を説明する従来の仮説と必ずしも符合しない. 肩手症候群の発生機序および病態に関しては, 脊髄介在ニューロン群の反射性回路が関与するとしても, 原因疾患に応じて, より末梢あるいはより中枢の病態を検討する必要があり, 殊に片麻痺においては脳病変との関連を重視すべきと考えられる.
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