日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者胃・十二指腸潰瘍出血に対する内視鏡的純エタノール局注止血法の意義
渋谷 大助浅木 茂佐藤 彰大原 秀一目黒 真哉後藤 由夫
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1985 年 22 巻 1 号 p. 26-31

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抄録

当科で1979年6月より1983年1月までの3年半の間に緊急内視鏡検査を行ない, 活動性出血や新鮮凝血塊付着の為内視鏡的止血が必要と判断した例に対して純エタノール局注止血を施行した出血性胃十二指腸潰瘍は57例であった.そのうち60歳以上の25例を検討した. 平均年齢は66歳, 男女比は5.3:1と男性に多かった. 出血部位は胃潰瘍が20例80%で, 十二指腸潰瘍が5例20%あった. うち2例が球後部潰瘍であった. 胃潰瘍はC領域10例, M領域8例, A領域2例と比較的高位に発生したものが多かった. 多発例は40%を占めていた. 出血状態をみると, 噴水状出血が4例, 静脈性出血が4例, 新鮮凝血塊付着が17例あった. そのうち露出血管を有するものは13例あった. ショックを呈したものは15例60%あり, 大量出血例が多かった. 基礎疾患では悪性腫瘍及びその術後11例, 胆石症術後2例, 重症糖尿病3例, 心不全2例, その他が5例あった. 出血に対して外科手術を緊急に行なうには high risk の例が多かった. これらの25例に対して内視鏡的純エタノール局注止血を行ない全例止血し得た. 止血後に原疾患にて死亡した3例と上腸間膜動脈血栓症を合併し, 本法で止血後翌日待期手術を行なった1例を除く21例は保存的療法にて治癒し得た. 老年者の潰瘍出血は大出血例や出血をくり返す例が多く, 保存的療法では止血し得ない場合が少なくなく, また重篤な合併症を有する例では外科手術の予後も良くないというのが一般的な考えであった. しかし, 内視鏡的純エタノール局注止血法は確実な止血効果を有し, 従来緊急手術しかなかった症例に対しても止血し, 待期手術や保存的療法のみで治療しうるようになった. とくに, これまで外科手術しか救命の方法がなく, 死亡率も高かった重篤な基礎疾患を有する老年者胃十二指腸潰瘍大量出血例に対しても本法が有効で, 保存的に治療しうるようになった意義は極めて大きいと考える.

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