日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
穿通枝領域の多発性脳梗塞における知的機能障害発現要因について
羽生 春夫阿部 晋衛新井 久之久保 秀樹清水 伸哉岩本 俊彦高橋 優藤田 龍一友利 千之茂木 明
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1992 年 29 巻 4 号 p. 298-304

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抄録

大脳深部穿通枝領域 (視床前内側部を除く) に限局した多発性脳梗塞57例 (男35例, 女22例, 平均年齢79.6±6.7歳) を対象に, 知的機能障害の発現要因について検討した. 痴呆を有する多発梗塞性痴呆 (MID) 群40例では, 痴呆を認めない多発性梗塞 (MI) 群17例に比し, より高齢で, CT上側脳室周囲にみられる periventricular lucency (PVL) は広範にみられ, 側脳室は拡大し, 日常生活動作 (ADL) は不良であった. 性差や脳卒中危険因子の有無, 収縮期, 拡張期血圧値およびCT上の梗塞部位, 低吸収域数については, 両群で明らかな相違は認められなかった. 知的機能を長谷川式スコアから評価し各要因との相関関係を求めると, 年齢, PVLスコア, 脳室拡大指数 (VI), ADLスコアとの間にそれぞれ有意な関連が認められた. 重回帰分析により長谷川式スコアに影響する因子を解析した結果, PVLスコアとVIについて最も高い偏相関係数が得られ, 次いでADLスコア, 年齢も独立して影響を与える要因と考えられた.
以上から, 穿通枝領域の多発性脳梗塞における知的機能障害の発現には, 梗塞巣の直接的な関与は少なく, むしろPVLとして描出される大脳深部白質病変およびこれと密接な関連が推測される脳室拡大が最も大きな要因と考えられた. さらにADLの低下や加齢などの身体的要素を含む個体側の問題も関与していることが示唆された.

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