日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
中枢神経系の老化に関する実験的研究
第1報 加令に伴なう脳 Lipoperoxide の増加について
吉川 政己平井 俊策
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1966 年 3 巻 3 号 p. 256-260

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抄録

Lipofuscin が神経細胞の老化を示す重要な形態学的指標の1つであることはすでによく知られているが, 一方生化学的な老化の指標としては確立されたものがみられない. われわれは lipofuscin の生化学的追求を通じて神経系老化を知る生化学的指標をえたいとの目的で研究をすすめているが, 今回は lipofuscin と組織化学的によく類似している ceroid 色素に注目し, その前駆物質と考えられる lipoperoxide の脳における変化を加令との関連の下に実験的に検討した.
その結果
1) 脳の lipoperoxide は加令とともに有意に増加する.
2) 加令に伴なうこの増加は α-tocopherol や α-tocopheryl felurate のごとき抗酸化剤により抑制しうる.
3) ラッテを離乳直後より, VE欠乏〔E(-)〕VE過剰〔E(+)〕および対照 (C) の3群に分け, 種々の時期に脳内 lipoperoxide を測定してみると常にE(-)>C>E(+)群の順となるが, E(-)群とC群とは加令とともに有意差がなくなり, E(+)群とC群とは逆に次第に有意差を示すようになる.
4) Linol 酸 peroxide および acetanilid 投与によっても脳内 lipoperoxide を増加させうる, 等の結果をえた. 加令に伴なうかかる lipoperoxide 増加の原因は不明であるが, 生体内脂酸構成の変化, 抗酸化物質, その他酸化還元系に関与する諸物質の変化が関与するものと考えられる.
以上の実験結果は free radical theory, cross-linking theory のごとき最近の老化学説と, 古くから知られている老化に伴なう lipofuscin 増加という形態学的所見とを橋渡しする所見として興味があると考える.

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