抄録
リズム運動の加齢変化の特性を詳しく調べるため, 一定周期 (2, 3, 4および5Hz) の音刺激に合わせる指タッピング試験を, 18歳から85歳までの健康成人ボランティア380名 (グループ1) に施行した. また高齢者のリズム運動についての平均像を求めるため, 無作為に抽出した65歳から89歳までの在宅高齢者1,134名 (グループ2) に4Hzでのタッピングを施行した. 両グループともタップ間隔の平均値が刺激間隔より3ms以上短い加速タップの出現が認められた. グループ1では主として4Hzと5Hzタッピングで加速タップが出現し, 60~70歳代で35%以上と高齢になるほど出現率が高くなっていた. グループ2の4Hzタッピングにおける加速タップの出現率は, グループ1の65歳以上の4Hzタッピングにおける出現率と同程度であった. 加齢により加速タップの出現率は増加し, 80歳代では50%以上に達すると推定された. 逆にタップ間隔が刺激間隔より3ms以上長い遅延タップも高齢者では高頻度でみられた. 加速タップはパーキンソン氏病患者などに見られる加速現象と類似のもので, 手指の運動スピードの低下を示す遅延タップとは逆方向のリズム運動の異常と考えられる. この2つのリズム運動の異常が平行して出現することが高齢者の特徴と言える.