日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
縦断検査での加齢と心電図変化の検討
人間ドック受診高齢者の retrospective study
新村 健海老原 良典川村 昌嗣谷 正人中村 芳郎
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1994 年 31 巻 5 号 p. 366-373

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抄録
加齢に伴い心電図に変化が生じることは, 異なる各年代からの抽出標本を用いた比較から推測されているが, 同一個体での長期間の追跡調査を多数例で行った報告はほとんどない. 我々は生理的老化による心電図変化とこれを修飾する病的因子を検討する目的で同一個人の心電図の経時的比較を多数例で行った. 対象は慶應健康相談センター人間ドックを15年以上の期間にわたって複数回受診し, 1992年時点で60歳以上の心疾患を持たない500名 (男性406名, 女性94名) である. 初回受診時の心電図と1992年の心電図を比較し, 臨床指標の変化と対比した. (1)加齢に伴い高齢者では, 電気軸はより左軸方向へ変化し (43±32→32±37°), QTc時間は短縮 (410±26→401±24msec), PR時間は延長 (165±23→170±23msec) した. 0.02秒以上の変化をもって有意と判断するとPR時間は30%の症例で延長し, QTc時間は35%で短縮した. 電気軸は10°以上の変化をもって有意と判断すると42%が左軸方向へ変化した. STの変化は16%に, 左右房負荷の出現は8%に, 脚ブロックの出現は7%に認められた. (2)心電図変化におよぼす臨床背景因子の影響を検討した. 電気軸偏位, PR間隔, QTcの短縮は, 今回検討した病的因子と有意な関係を認めず主に生理的老化に伴う変化と推測された. 一方, QTcの延長, ST変化の出現は, 高血圧, 耐糖能異常, 眼底動脈硬化を持つ群に高率に出現した. 脚ブロックの出現は男女間で差を認めた. 耐糖能異常群では加齢に伴うPRの延長, QTcの短縮を認めず, これらの現象を抑制する可能性が示唆された. (3)更に現在の年齢が65歳未満の群と80歳以上の群とで観察期間中の心電図各所見の変化の出現頻度の相違を検討した. 80歳以上群は16例のみであったがST変化の出現率は有意に高かった. 以上より心電図各成分の加齢に伴う変化は, それぞれ異なった時相をもち, 病的因子により異なった修飾を受けていると推測された.
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